投稿者: SIGEN

「新しい生活様式」が始まり、ローカルバンドマンが選んだスタイルは、戦前ブルースマンと呼ばれる人達の様式美。およそ100年前に確立された音楽は、現在の状況さえも癒してくれるのではと研究中。

Baby Please Don’t Go / ライトニン・ホプキンス

 “稲妻男”ライトニン・ホプキンスは、1912年3月15日テキサス州センターヴィルに生まれた。ブラインド・レモン・ジェファスンにギターを学んだ少年は、やがて唯一無二のブルースマンとなり、1982年1月30 日に亡くなるまでニヒルにブルースを歌い続けた。時代の流行り廃りをサングラス越しに眺めては、咥え煙草で笑い飛ばしたのだ。録音の方も多くのレーベルに膨大に遺している。追っかけする方としては大変なブルース人生なのだ。

 ま、詳しく知りたい人は安心してググってくれ。戦後カントリー・ブルースのトップアイドルである彼の情報はたくさん溢れているのだから。

 さて、今回カバーした「Baby Please Don’t Go」だが、最も古そうな録音はビック・ジョー・ウィリアムのようだ。

 それにしてもこの曲は、色々なミュージシャンのカバーが有るし、歌詞がそれぞれ少し違ったりして大変だ。ま、それでも1番目の歌詞は大体同じ。

「ベイビー、ニューオリンズに行かないでおくれ」

「だって俺はお前を心から愛してるから」

 なぜ「ニューオリンズに行かないでくれ」と、男が懇願しているかというと…。

 どうやらこの大きな港町には昔から歓楽街があって、売春宿を兼ねたダンスホールなども多くあったようだ。「朝日の当たる家」なども有名だけれど、「ニューオリンズに行く」という女は、ヤバイ夜の街に身を落とそうとしてるわけだ。そんな女に、「なあ、行かないでくれ、愛してるんだからさ」と、未練がましく泣きつく男のやるせない歌なのだ。

 コロナの禍が進む中で、夜の街が非難されている。ま、無神経に対策を取らずに営業を続ける店ならば、すぐにでも廃業して欲しいものだが、この苦しい状況でも懸命に生きている人たちは生き残って欲しい。どうしようもない生き方ってやつは、いつの時代にも出てきてしまうと思うのだ。

 人生は勝ち負けではないよ。どんな状況でも、最後まで生きようとすることが当然だと思うから。

Riding With The King (Deluxe)

 2000年に発売されたクラプトンとB.B.キングによる「Riding With The King」の20周年盤が発売されていた。恥ずかしながらこのニュースは知らなかったのだが、主な音楽雑誌にも取り上げられていて、立ち寄った本屋で二人が表紙の「Player 8月号」を手にして知ったということになる。さっそく中身をチェックしページをめくると吾妻光良さんがB.B.キングを語っているでないか。もちろん即買いをキメて吾妻さんの記事からチェックした。ここでは詳しく書かないけれど、購入して読む価値はありだ。B.B.キング本人にインタビューしたことのある吾妻さんならではのコメントからブルースへの深い探究心までと、深い愛情が感じられます。

 話が脱線してしまったが、クラプトンとB.B.キングの「Riding With The King _Deluxe_」に戻そう。このアルバムには未発表の「Rollin’ and Tumblin’」「Let Me Love You」が追加収録されている。アコースティックな「Rollin’ and Tumblin’」も、ホンキートンクなJAZZバージョンとも取れる「Let Me Love You」も楽しめたが、アルバムを聴きなおしてみれば、やはり「Help the Poor」が大好きだ。ピーター・グリーンの「I love another woman」にも繋がるこのリズムには何度聞いてもイカされてしまう。根源的なこのリズムは昭和歌謡でもあるが、とにかく品があってモダンなのである。

 さて、「Riding With The King」から1曲カバーしたくなった。バンドならば当然「Help the Poor」を演りたいところなのだが、弾き語りっていうことでアコースティックバージョンの「Key to the Highway」に勝手に歌詞を付けてみた。タイトルも「俺のハイウエイ」だ。この曲は多くのブルースの曲のように誰が書いたかはっきりしていないようだが、20世紀初頭の不景気な時代にホーボーやホームレスがアメリカ中を流離う様子を歌ったようだ。それにしても迷える時代になると、いつもの繰り返しの毎日ってやつが1番幸せだったと思う。次に日常の暮らしに戻っても同じく思いたいものだ。

Blues Blues Blues/ The Jimmy Rogers All Stars

 シカゴブルースの立役者の一人であるジミー・ロジャーズのトリビュート盤「Blues Blues Blues」を最近よく聞いている。

 このアルバムは、マディ・ウォーターズやハウリン・ウルフではなく、ジミー・ロジャースをクラプトン、ミック&キース、ジミー・ペイジにロバート・プラントが囲んでいるってのが素晴らしい。さらにはスティーヴン・スティルス、ジェフ・ヒーリー、タジ・マハール、そしてローウェル・フルスンがメインゲストとして参加。それぞれがジミー・ロジャースとともにジミーの曲やブルースのスタンダードを競演しているということで、何度聞いても微笑んでしまうのだ。特にミックの歌声は『な、に、か、が、』違う。ミック&キースは「トラブル・ノー・モア」「ドント・スタート・ミー・トゥ・トーキン」「ゴーイン・アウェイ・ベイビー」の3曲に参加なのだが、ストーンズファンだから耳慣れているってのを抜きにしても、『な、に、か、が、』違っているのだ。

 たとえばクラプトンが参加している「ブルース・オール・デイ・ロング」「ザッツ・オール・ライト」にしても、彼の歌もギターも耳慣れているはずだからもっとニヤけるかとも思ったが、クラプトンはこういう場面だとブルースに敬意を払いすぎてしまっているのかもしれない。逆に言えばジミーを引き立てている。ミックもブルースのレジェンドに敬意を払っているのだろうけれど、彼の場合は敬意を払いつつも、自分はレジェンド達にはなれないってことに早くに気がついてしまったことで、オリジナルの扉が開いたのかもしれない。ホントに誰とやろうともミックジャガーなのである。

 さて、他にも当然素晴らしいテイクはある。まずはなんといっても「ウォリード・ライフ・ブルース」。スティーヴン・スティルスが参加しているわけだが、ファズがかった野太いギターソロはスリリングだし、ジミーの歌声にも晩年の男のシブさが宿っている。 

 そしてローウェル・フルスンとのナンバー「エブリ・デイ・アイ・ハヴ・ザ・ブルース」はスローテンポでじつにクールにキマっている。B.Bキングのバージョンを聞きなれていた俺にはすごく新鮮だった。毎日がブルースだという歌詞もこのテンポの方がしっくりとくるのかもしれない。

 それからもうひとつ面白かったのはジミーの名曲の「ルデラ」。参加したタジ・マハールは、ジミーの声よりもカッコイイのだ。それでもジミーの歌声に戻ると、やっぱこれでいいのかと納得してしまう面白さがあると思う。

 結局ブルースって、絶妙なサジ加減がそれぞれの人生次第。「ブルースなら人に分けてもらう必要はない。自分の分はもう持っている」っていうやつがあるけれど、トラブルを抱えた人生こそがオリジナルであって、それぞれがそこに向き合うしかないと思ってしまうのだ。さて、肝心の俺のブルースの方はどうだろうか。