投稿者: SIGEN

「新しい生活様式」が始まり、ローカルバンドマンが選んだスタイルは、戦前ブルースマンと呼ばれる人達の様式美。およそ100年前に確立された音楽は、現在の状況さえも癒してくれるのではと研究中。

王様と言うよりスーパースター / B.B.キング

 今年のプロ野球の話題はなんと言っても佐々木朗希投手だ。160Kを超えるストレートと、140K後半のフォークボールで完全試合をやってのけてしまった。地元の選手ということで高校生の頃から応援しているが、まさかこんなにも凄い活躍をしてくれるとは予想できていなかった。本当にありがとう。あの圧倒的なピッチングは、もはや芸術作品だ。それを示すかのように、完全試合を決めた後のチケットはソールドアウトで、その芸術的なピッチングに酔いしれたいファン達に注目されていた。誰もかれもが、この時代に抱え込んでしまった思いを解放してくれるヒーローを待ち望んでいたかのようだった。

 さて、その佐々木投手だが、甲子園出場をかけた岩手県大会の決勝では、登板を回避したということで大きな話題となってしまった。あの時は多くの賛否が飛び交い、勝手に重石を背負わされてしまったわけだが、この完全試合で一旦の区切りはつけられたのではないだろうか。まさにブルース(憂鬱)ってやつは、誰にだって落とされてしまうものだが、時間をかけて取り組むことで、それを払い退けられることを証明してくれたように思えてくる。

 さてさて、これからスーパースターへの階段を駆け登っていくであろうと期待してしまうのが佐々木投手であるならば、ブルース界のスーパースターであり続けたのはB.B.キングだ。彼の編み出したブルースの常套手段は数知れず、89年という生涯を終えるまで王様の椅子に座り続けたのである。「3 O’Clock Blues 」がヒットした1951年から、2015年に亡くなるまで、少なくともブルース界において、B.B.キング以上の存在感を示した者はいなかった。それまでのブルースの歌い手はR&B・チャートでヒット曲を出すことはあっても、ポップ・チャートにまで顔を出すことは少なかったのだが、B.B.が57年に発表した「Be Careful with a Fool」は、ゴスペル調のボーカルにホーン・セクションをバックに従えた新しいサウンドで、それまでの田舎くさいブルースを払拭し、アーバン・ブルースというスタイルを作り上げて、ポップ・チャートにまで名前を連ねてみせた。

 もちろん、ギター・プレイにおいても独自のスタイルを完成させていく。それまでのボトルネック奏者だけがなし得ていた咽び泣くようなスライド奏法の音を、チョーキングと素早いビブラートで表現し、誰よりもセクシーな音色で肉感的に迫ったのであった。このスタイルを完成した時期の演奏映像がこちらで、とてもセクシーだと感じてしまう。どこか懐かしく切ないサウンドは、古いとか新しいという議論を超えた不滅のスタンダードとなっている。どうやら68年の映像のようで、ライブ・アルバムの必聴盤とされる65年の「Live At The Legal」や67年の「Blues Is King」を彷彿させるものだと思う。

 この頃のB.B.は、ジミ・ヘンドリックスなども取り上げてスタンダードとなった「Rock Me Baby」や、グラミーショーを受賞した「Thrill Is Gone」を発表した時期とも重なり、ブルースをエンターテイメントにまで昇華させていた頃だ。ライブに詰めかけた人たちの様子は、ブルースを聴衆している人たちとは思えないほど高揚している。そして人種の隔たりもなく誰もが笑顔だ。どのジャンルのスーパースターたちも、まず記録や成績から語られるものだろうが、正真正銘のスーパースターの第一条件は、人々を笑顔にしてくれるということなのかもしれない。

 と言うことで、佐々木投手もガンバッテね!

Lady In The Balcony:Lockdown Sessions / エリック・クラプトン

 コロナによるパンデミックの影響を受けて良いことは少なかったが、エリック・クラプトンの「ロック・ダウン・セッションズ」を聴くことができたのは幸いだった。昨年、ロイヤル・アルバート・ホールでのコンサートが中止になってしまったクラプトンは、その代わりにイギリスのカントリー・ハウスにバンド仲間と集まり、小さなコンサートを開催した。参加者はバンド・メンバーと、クラプトンの妻のメリアだけ。彼女は唯一の観客としてバルコニーから拍手を贈っている。撮影クルーたちでさえも外に出されたのは、建物の構造上の影響から小さなノイズも拾ってしまうため、外に待機させた中継車から操作しなくてはいけなかったからだ。

 さて、演奏された楽曲は、ほとんどがアコースティックによるセットによるもので、大ヒットした「アンプラグド」を思い出させたが、焼き直しなどというノスタルジックなものではなかった。彼のキャリアにおける膨大なレパートリーの中から、自身の曲はもちろんのこと、敬愛するブルースまでも取り上げ楽しませてくれている。とにかくサウンドが心地良く、最近の通勤時にはこればかりを聴いている。

 このアルバム「レディ・イン・ザ・バルコニー:ロックダウン・セッションズ」に参加したメンバーは、ネイザン・イースト(Ba&Vo)、スティーヴ・ガッド(Dr)、クリス・スティントン(Key)らと、クラプトンとは馴染み深い人たちばかりだ。音を聴く前に映像だけを見ると、クラプトンだけではなく、スティーヴやクリスからも老けた印象を受けてしまうのだが、演奏が進むにつれて静かに佇む姿には、70歳を超えていくことは素敵で美しいことなのだと気づくことができた。

 いつもとは違ったアレンジが施された「Nobody Knows You When You’re Down and Out」からスタートし、クラプトンの歴史を辿るかのように演奏は続けられていく。個人的に感激したのは「River Of Tears」のアコースティック・バージョンを聴くことができたことだ。この曲は98年にリリースした「Pilgrim」に収録された曲で、その同じ年に小さな美容室をオープンさせた僕は、頻繁にこのアルバムをBGMとして店で流していた。あれからクラプトンが変わらず元気に演奏してくれているのがとても嬉しいし、自分もなんとかやっていけている。これ以上何を望もうか。

 ひとつの曲が終わる度に、メンバーに「良かった」「いい音だ」「ありがとう」などと声をかけていくクラプトンの笑顔は最高だった。良い時もダメな時もクリエイティブを続けてきた人間から放たれる優しさを受け止めることができた。彼自身もメンバーも、希望していた大勢のファンの前でのコンサートではなかったのだろうが、世界中の人たちが”ヤバイ”ニュースで動揺している中で、このアルバムはとても安らぎをもたらしてくれるものだと思っている。

Danny Boy / なかにし礼

「ダニーボーイ」は、アイルランドで歌い継がれてきた民謡に歌詞を付けたものです。今では様々な歌詞も存在していますが、アイルランドの独立運動のために闘いに行ってしまった息子を悲しむものがよく知られています。

 日本語でもいくつかの歌詞があります。中でもなかにし礼さんが手掛けた歌詞からは、戦争体験者としてのメッセージを受け取ることができます。

 ところが、今日もまたウクライナ情勢は激しさを増しています。

 富や利益だけを追求した人間の愚かな醜態が映し出されています。

 幸せな暮らしを、争いで勝ち取ろうと勘違いしているかのようです。

 たしかに、ぼくも、あれ程酷くはないにしても、調子にのっていました。もっと便利に、もっと贅沢に、もっと儲かるように、そんなことばかりに目を奪われていました。

 そうなのです、肝心な暮らしには手に余るものばかりに目を奪われていたのです。

 でも、要らぬ思いは降ろします。

 ただし、「NO」と伝える意志は持っていようと思っています。

 政治家じゃなくても、有名じゃなくても、「STOP THE WAR 」と伝えます。

 穏やかな暮らしの中にこそ、幸せはあると気がついているからです。

*ユニセフのウクライナ緊急募金サイトも紹介させてください。