投稿者: SIGEN

「新しい生活様式」が始まり、ローカルバンドマンが選んだスタイルは、戦前ブルースマンと呼ばれる人達の様式美。およそ100年前に確立された音楽は、現在の状況さえも癒してくれるのではと研究中。

Bring It On Home To Me / B.Bキング&ポール・キャラック

 サム・クックの「Bring It On Home to Me」は、1962年にリリースされた彼の代表曲の一つです。その後、多くのアーティスト達にカバーされてきました。歌詞の内容は、去ってしまった恋人への未練と、戻ってきて欲しい切ない願いを歌っています。明るいメジャーキーながら、どこか切ないメロディーは、主人公の落ち着かない心模様を現しています。そして僕はこの手の雰囲気の曲がどうも好きみたいです。恋愛もよく分かっていない中学生の時から好きでしたから、歌詞の内容よりもそのメロディーとコードの空間に酔わされてしまうのかも知れません。わずか3つのコードでできた曲なのに凄いですよね。 

 さて、僕の好きなカバー・バージョンは、B.Bキングがポール・キャラックと共演したやつです。残念ながらここではB.Bの歌声は聴くことができませんが、それでもギターソロでは十分にその存在感を際立たせています。いつものように複雑なフレーズを弾きまくるのでもないのですが、今風に言えば、そのフレーズはとてもエモイです。コピーしてみると分かるのですが、B.Bのチョーキングは凄まじいです。

 ギターが歌うって、こういう事かと腑に落ちました。今までもB.Bは聞いてきましたが、彼のチョーキング&ビブラートが絶賛される理由がそこにありました。ガチガチのブルースの曲で弾いているソロよりも、「Bring It On Home to Me」のような分かりやすい曲の中でソロをとってもらった方が、B.Bの凄さ、存在感は際立ってくるものなんですね。ブルースがよく分からない、苦手な方はこの入り口からどうぞ。

Tennessee Waltz / エラ・フィッツジェラルド & ジョー・パス

 ジョー・パスと言えば「Virtuoso」だよね。と、ソロ・ギターを取り出し語られることが多いはずです。でも僕が好きなジョー・パスは、ヴォーカル&ギターのデュオでの伴奏スタイル。特に女王エラ・フィッツジェラルドとのコンビは最高です。彼が「Virtuoso」を録音した同じ’73年に、エラ・フィッツジェラルドの歌を1本のギターで伴奏した「Take Love Easy」発表していたというのにも素敵な縁を感じます。そしてこれが発火点となり、その後2人は続編を発表していくこととなっていくのです。

 2人のデュオ作品の中でも僕が大好きなアルバムが「FITZGERALD & PASS …AGAIN」76年1月から2月にかけての録音で、エラさんのヴォーカルとパスのギターのみで製作された名人芸の作品です。余計なものを削ぎ落とされたシンプルなスタイルなのですが、2人の掛け合いは味わい深く、もしも2人と一緒に暮らせたのなら毎日が楽しいだろうなと思える作品で、ジャズが苦手な方でもきっと好きになれることでしょう。また「Tennessee Waltz」のように誰もが知っている曲も収録されていますので、他の誰とも似ていない2人のアレンジを楽しんでください。

「Tennessee Waltz 」は1948年に作られたポピュラー・ソングで、最初にヒットさせたのは1950年に3拍子で歌われたパティ・ペイジによる録音のものでした。そこから多くのアーティスト達に歌い継がれてきたのですが、先に述べたように、エラ&パスの調理方法は一味も二味も違っています。初めて聴いた時にはジョー・パスが弾くリフがどう言う解釈から生まれたのかが不思議でしたし、更にはその上で自由にメロディを歌えるエラ・フィッツジェラルドには驚きました。この2人の技術は人間技ではないなと(笑)。テクニックがある人達だけが成せる音楽なのだと思いこんでいました。

 ま、今では、なぜあのようなアプローチが生まれたのかを少しは理解できるようになってきましたが、音楽を学ばなければまったく分からなかったと思います。結局2人とも音楽を深く掘り下げていく過程がたくさんあったのでしょうね。

 そうそう、テクニックの話しが出たところで、ジョー・パスが’90年に来日した際のインタビューを紹介しておきましょう。その時のパスは「僕はスピードよりもメロディの美しさ、スリルよりも穏やかさを探し続けてきたつもりだよ」という言葉を残しています。

 最高のテクニックを持ち合わせていながらも、曲芸めいた音楽の方向へは進まなかったという言葉を見つけた瞬間に、だからエラ・フィッツジェラルドが歌うメロディ・ラインとより合わせることができたのかと、僕は深く納得できたのでした。

あなたも私もブルースが好き

 しばらく更新を休んでおりましたらもう12月。今年もあと少しで終わりそうです。振り返ってみれば、本業の仕事の調子が上がってきた1年でありまして、自営業者としては苦しい時期が長かったのですが、ここまで続けてこれた事に感謝が溢れた1年でありました。お店(美容室)をオープンさせた時には、まさか自分が50歳を過ぎても現場でハサミを握っているとは想像できませんでしたが、今では還暦を迎えても髪を切っている姿が想像できちゃいます。うーん、人生とは面白いものですね。

 さて、今回カバーさせて頂いた曲は、日本のブルース界のレジェンドである木村充揮さんと有山じゅんじさんのコラボアルバム「木村くんと有山くん」(1998)から、「あなたも私もブルースが好き」を取り上げてみました。9月に行われた奇妙礼太郎さんのバースデー配信ライブにゲストして登場していたお2人に感激してこの曲を選んでみたのですが、とにかくその時のライブでは、主役の奇妙さんが2人のステージを観客席で観覧する場面もあったりと、今なお受け継がれているブルースのDNAを感じさせてくれる素晴らしいライブでもありました。

 と、いう感じで、長い間ブルースを歌い続けてこられたお2人のように、夢中になれたことを追いかけ続けられたら、キツイ時もあるかもですが、いつかは幸せに辿り着けそうな気分になれています。来年も、その先も、仕事も音楽も楽しく続けられたらいいなという思いであります。