投稿者: SIGEN

「新しい生活様式」が始まり、ローカルバンドマンが選んだスタイルは、戦前ブルースマンと呼ばれる人達の様式美。およそ100年前に確立された音楽は、現在の状況さえも癒してくれるのではと研究中。

Tennessee Waltz / エラ・フィッツジェラルド & ジョー・パス

 ジョー・パスと言えば「Virtuoso」だよね。と、ソロ・ギターを取り出し語られることが多いはずです。でも僕が好きなジョー・パスは、ヴォーカル&ギターのデュオでの伴奏スタイル。特に女王エラ・フィッツジェラルドとのコンビは最高です。彼が「Virtuoso」を録音した同じ’73年に、エラ・フィッツジェラルドの歌を1本のギターで伴奏した「Take Love Easy」発表していたというのにも素敵な縁を感じます。そしてこれが発火点となり、その後2人は続編を発表していくこととなっていくのです。

 2人のデュオ作品の中でも僕が大好きなアルバムが「FITZGERALD & PASS …AGAIN」76年1月から2月にかけての録音で、エラさんのヴォーカルとパスのギターのみで製作された名人芸の作品です。余計なものを削ぎ落とされたシンプルなスタイルなのですが、2人の掛け合いは味わい深く、もしも2人と一緒に暮らせたのなら毎日が楽しいだろうなと思える作品で、ジャズが苦手な方でもきっと好きになれることでしょう。また「Tennessee Waltz」のように誰もが知っている曲も収録されていますので、他の誰とも似ていない2人のアレンジを楽しんでください。

「Tennessee Waltz 」は1948年に作られたポピュラー・ソングで、最初にヒットさせたのは1950年に3拍子で歌われたパティ・ペイジによる録音のものでした。そこから多くのアーティスト達に歌い継がれてきたのですが、先に述べたように、エラ&パスの調理方法は一味も二味も違っています。初めて聴いた時にはジョー・パスが弾くリフがどう言う解釈から生まれたのかが不思議でしたし、更にはその上で自由にメロディを歌えるエラ・フィッツジェラルドには驚きました。この2人の技術は人間技ではないなと(笑)。テクニックがある人達だけが成せる音楽なのだと思いこんでいました。

 ま、今では、なぜあのようなアプローチが生まれたのかを少しは理解できるようになってきましたが、音楽を学ばなければまったく分からなかったと思います。結局2人とも音楽を深く掘り下げていく過程がたくさんあったのでしょうね。

 そうそう、テクニックの話しが出たところで、ジョー・パスが’90年に来日した際のインタビューを紹介しておきましょう。その時のパスは「僕はスピードよりもメロディの美しさ、スリルよりも穏やかさを探し続けてきたつもりだよ」という言葉を残しています。

 最高のテクニックを持ち合わせていながらも、曲芸めいた音楽の方向へは進まなかったという言葉を見つけた瞬間に、だからエラ・フィッツジェラルドが歌うメロディ・ラインとより合わせることができたのかと、僕は深く納得できたのでした。

あなたも私もブルースが好き

 しばらく更新を休んでおりましたらもう12月。今年もあと少しで終わりそうです。振り返ってみれば、本業の仕事の調子が上がってきた1年でありまして、自営業者としては苦しい時期が長かったのですが、ここまで続けてこれた事に感謝が溢れた1年でありました。お店(美容室)をオープンさせた時には、まさか自分が50歳を過ぎても現場でハサミを握っているとは想像できませんでしたが、今では還暦を迎えても髪を切っている姿が想像できちゃいます。うーん、人生とは面白いものですね。

 さて、今回カバーさせて頂いた曲は、日本のブルース界のレジェンドである木村充揮さんと有山じゅんじさんのコラボアルバム「木村くんと有山くん」(1998)から、「あなたも私もブルースが好き」を取り上げてみました。9月に行われた奇妙礼太郎さんのバースデー配信ライブにゲストして登場していたお2人に感激してこの曲を選んでみたのですが、とにかくその時のライブでは、主役の奇妙さんが2人のステージを観客席で観覧する場面もあったりと、今なお受け継がれているブルースのDNAを感じさせてくれる素晴らしいライブでもありました。

 と、いう感じで、長い間ブルースを歌い続けてこられたお2人のように、夢中になれたことを追いかけ続けられたら、キツイ時もあるかもですが、いつかは幸せに辿り着けそうな気分になれています。来年も、その先も、仕事も音楽も楽しく続けられたらいいなという思いであります。

Life Without You / スティーヴィー・レイ・ヴォーン

 弾いてみたい曲っていくつもあるけれど、どうしても弾いてみたいと思わせる曲はそうそう多くはないものです。そんな僕にとってレイ・ボーンの「Life Without You」は、いつか弾けるようになりたいと思い続けていた曲でした。初めて聴いたのは3rdアルバム『Soul To Soul』でした。とにかく初めて聴いた時から一瞬で大好きになりました。ですからすぐにでも弾けるようになりたかったのですが‥まだ初心者から脱出できたばかりの僕にとっては、いったいどうやって歌いながら弾いているのか見当もつかない状況だったのです。

 レイ・ボーンが立て続けにアルバムを発表していた’85年頃には、ギター雑誌などで彼の特集が組まれ始めてはいましたが、タブ譜として出てくるのは「Scuttle Buttin」や「Pride and Joy」のようなブルースフレーズの方ばかりで、僕の欲しい情報は見つかりませんでした。今となれば、ジミ・ヘンドリックスの影響を受けて、あのように歌いながらフレーズを弾いたり、歌の裏で合いの手を入れていたことを理解できるようになりましたが、ジミヘンも良く分かっていなかった当時の僕にとっては、そのフレーズだけではく、レイ・ボーンのリズムの取り方も理解できなかったのです。

 あれから40年の月日が流れ、もう一度チャレンジしてみようと思い、まずは何度も曲を聴き込みました。しかしフレーズはある程度コピーできるのですが、リズムの取り方がやはり上手くいきません。ならばと、ギターの師匠である高免先生にアドバイスを頂きました。師匠はジャズギタリストなのですが、音楽全般に詳しくロックでもブルースでもキッチリ解説してくれます。その師匠曰く、「この曲は一般的な4分の4拍子なのですが、歌とドラムがリズムを食って入っているのでリズムを見失いやすいのだと思いますよ」との事でした。そのアドバイスを胸にして、よくよく聴いてみた結果、歌の出だしは前の小節の3拍目から、バスドラは4拍目の裏から入っていました。複雑に聴こえていた理由がここにありました。

 そしてようやく、カッコいいバンドのグルーヴの秘密が分かってきた気分でした。この「リズムの食い」だけを使って、シンプルな8ビートの上でもカッコよくグルーヴしてるバンドってありますよね。それに日本人だとバンド内でも同じように揃えたりする事が多いのですが、海外のアーティスト達は、他の人が埋めていない箇所に音をはめ込んでいく事が多いようです。だから独特なグルーヴが生まれるんですね。

 でもこれをする為には、キチンと他の人の音を理解し聴いていないとムリな話し。適当に他の人の音を聴いて何となく合わせているのでは難しい。レイ・ボーンはダブル・トラブルのメンバーの音を良く理解していたのだと思います。当然、べーシストのトミー・シャーノンと、ドラムのクリス・レイトンもレイの事を理解してくれていたのでしょう。いいバンド人生ってやつです。解り合えること。これがあれば人生の大半は幸せになれますもんね。

 さて、「Life Without You」ですが、この曲はレイ・ボーンが亡くなった親友であるエンジニアに贈った曲です。歌詞の意味も知らずに好きになった曲でしたが、解り合える人を失った後の暮らしの色合いを歌っていたこと知り、ますます大切な曲となりました。とても難しい曲なのですが、これからも歌っていきたいと思っています。