髪型を変える時の理由は人それぞれだろうが、最近の僕の場合は”なんとなく”切ってしまったって感じだ。いつもなら襟足を短くしてしまうことには抵抗を感じていたのだが、そこも”なんとなく”その場のノリで切ってもらった。たいていそんな時は、後で後悔が付いてきたりするものなのだが、今回は周りの評判も8割が好評で、自分でも気に入っている。ま、残りの2割からは前に戻した方がいいと笑われたりもしているのだが…。
とにかく今は新しい髪型を少しずつ馴染ませていく過程を楽しんでいるところだ。それに50代ともなれば髪質も変わってきている。デザインはシンプルで、居心地の良いスタイルが必要になってきている。ましてや洋服も食べ物も、飽きのこない定番なものに落ち着いてきたようだ。音楽の方の嗜好も、休日の台所でお酒とギターを楽しめる曲へと変わってきた。たいてい遅めのランチと言える時間帯から呑み始めるものだから、爽やかすぎる曲も、まったりとしてまう曲なども似合わない。色々と試してみている途中経過ではあるが、夏の終わりの夕暮れに1番ハマってくれたアルバムは、ヴァン・モリソンの「ムーンダンス」だった。
さてこの古いアルバムだが、タイトル曲の「ムーンダンス」はもちろん「クレイジー・ラブ」「キャラバン」「イントゥ・ザ・ミスティック」へと続く流れも完璧で、アナログ盤で聴くことができる人ならば、さぞかしお気に入りのA面といった具合だろう。何度聴いても古き良きアメリカが浮かび上がってくる。それだけに始めて聴いた時はアメリカ人が歌っているものと思っていた。それでもモリソンはイギリスは北アイルランド出身である。どうやらレコード・コレクターであった親の影響を受けて、アメリカのルーツ音楽をひと通り聴いて育っていたとの事だった。小さい頃からマディ・ウォーターズ、ライトニン・ホプキンス、ジョン・リー・フッカーなどを聴いて育ったというのだから納得でもある。
そしてそれはまた、ビートルズやストーンズがアメリカのブルースやロックンロールを追いかけていたのとも違う趣きが感じられる。青春を共に過ごした幼なじみと奏でるバンド・サウンドとは違う、一人きりの孤独の時間だったり、恋人と共有した時間を感じさせるものに仕上がっているような気がしている。音楽は多くの人たちと共有できるものでもあるが、とても個人的なものでもある。ヴァン・モリソンの歌声には、そんな個人的な感情を揺さぶる何かが含まれているようだ。いつしか孤高の詩人と呼ばれ始めたモリソンは、人物的にも付き合い難いと言われているようだが、普通に解り合える人間関係だけを結べていたら、こんな見事なアルバムは作れていなかったのかもしれない。